ケニー先生と決別した後――

僕と冬峰さんは宣言通り、ユートピアートでそれぞれの活動に打ち込んだ。

僕は元々国語の成績は良い方で、作文で賞を取ったこともある。

そんな自負からまずは簡単な短編から書き始めたが、最初はかなり難航した。

自分の感情をありのままぶつけるだけなら簡単だ。だけど僕がしたいことはそうじゃない。

それは多くの人に心を揺さぶる何かを伝えること。

その為に僕は、短い人生経験をフル活用してネタを考え、暇さえあれば執筆に没頭した。

一方冬峰さんは歌は天才的だったけど、機材やミキシング等の専門知識は皆無だったのでその勉強が必要だった。

僕も文章表現の勉強がしたかったので、カフェや図書館で彼女と一緒に度々勉強会をした。

……というのは口実で、目の見えない彼女が勉強するには僕が必要だった。

普通の学校の勉強までは母親に面倒を見てもらえるが、流石に趣味の勉強までは手が回らないだろう。

そう予感していた僕は進んで冬峰さんの勉強を手伝った。

ヘッドホンを付け、僕が隣で慣れない音楽用語を読み上げるのを聞きながら彼女が頷く光景は、周囲からは異様に映っただろう。

それはとても大変だったけど……同時に僕にはそれが一番楽しい時間だった。

僕たちはケニー先生によって生み出された異物同士。

その異物同士が、更に普通の人間なら踏み込めない分野に打ち込んでいる。

そんな状況が今となってはとても心地よかった。



冬峰さんも同じ気持ちだったようで、時おり僕の顔を見上げては『ありがとう。雨宮君の声、とても落ち着くから』と言って笑うのだった。