僕の診察自体は夜の六時だったので、その一時間前に病院のロビーで『N』と落ち合うことになった。

『N』自身は今日は診察日ではないので、本当に僕に会う為だけに来てくれるらしい。

正直、一カ月ぶりに緊張でドキドキしていた。

確かにユートピアート自体には飽きていたが、それと『N』本人と会うことは別だ。

たった一週間だけど重大な機密情報を共有した仲間。

事件が起こってから初めて出来た対等な話相手。

得体の知れないサイトに動画投稿をし、更には自ら僕と会おうとする行動力を持つ『どこかの誰か』。

僕は今ようやく、『N』に確実に興味を惹かれ始めていたことを自覚していた。

そして。



「ユウキさん……ですか?」



座ったまま横を振り返ると、『N』は――彼女はそこにいた。

「貴方が……『N』?」



女性であることは薄々感づいていた。

同年代であることも口調で分かった。

僕が驚いたのは、看護師に支えられながら彼女が杖をついて僕の前に現れたからだ。

今にも霞んでしまいそうなほど儚く美しい銀髪のセミロング。

小柄な体には白いワンピースに青のフリルスカート。

そして精緻な顔立ちに浮かぶ長い睫毛の伸びた目は、どちらも穏やかに閉ざされていた。

「看護師さん、ありがとうございます。ここまでで大丈夫です」



深くお辞儀をして看護師の女性が去ると、彼女は僕に向き直った。



「改めて初めまして……私の名前は冬峰奈波(ふゆみね ななみ)」