――一か月後。

綾瀬成美、高木秋人、神崎詩織の葬式の後、僕は事件が起こってから二回目の病院へ向かった。

以前から薬を飲んでいた間も週末には欠かさず通院していたが、この一か月は事件の取り調べや事後処理でそれどこではなかった。

テロリストに占拠された学校内で起きた人質間の虐殺事件は、何故か大きく報じられることはなかった。

本来ならば世間を騒がせてもおかしくないはずなのに、せいぜい地方紙に小さく『中学校における武装不審者集団事件』として載った程度だ。

武装不審者集団の動機は単なる金銭目的とされ、四人だけ人質を取り残した理由は『ちょっとしたお遊びのつもり』だったらしい。

ふざけるのも大概にして欲しい――彼らは最初から明らかに僕達四人をターゲットにしていた。それをこんな適当な嘘で誤魔化されるなんて虫唾が走る。

中学生なりの推測だが、きっとこの報道には国が関与しているのだと思う。

銃を所持したテロリストに学校が占拠されるなんて、銃社会のアメリカみたいな国でもない限りあり得ないことだ。

それが日本で起きてしまったなどと知れ渡れば、治安維持に大きな影響が出る。

その為にきっと、綾瀬と秋人と神崎さんの死は闇に葬られた。

彼らは他ならぬ僕の手と、国家権力の手によって殺されたのだ。

肝心の僕は三人を殺した時の記憶がなかった。

薬の効果が切れ始めた辺りから記憶が曖昧だが、神崎さんに手をかけた後のことは真っ白で全く覚えていない。

けれど警察の話によると三人の首には僕の手による絞殺痕があり、状況的にも物証的にも疑いの余地はなかった。

心神喪失状態での殺人、ということで罪には問われなかった。

この場合は刑務所に入る代わりに、精神病棟で治療を受けさせられることが多い。

が、僕は元から通っていた精神科への通院の継続を命じられただけで、何故か何のお咎めもなかった。

病院へ向かう道すがら、強く風が吹きつけた。

僕はふと道の脇を流れる川を見つめて立ち尽くす。

揺れる水面を見ると泣き崩れる生徒たちやご家族の涙を思い出した。

だけど僕の双眸は泣くどころか乾ききっていて。

代わりに心の中で行き場を失った感情が泥水となって溢れ出す。



僕はどうして普通に生まれなかったのか。

僕はどうして三人を殺してしまったのか。

僕はどうして誰にも罰をもらえないのか。


僕はどうして――未だに生きているのか。



川を見る度に深さを覗くのが癖になっていた。

屋上を見る度に無意識に高さを気にしていた。

でも……まだその時じゃない。



『勇樹君。私なら君を救ってあげることできるよ』



僕をまだ唯一繋ぎ止めるものがあるとすれば、それは先週病院で先生が言ったこの言葉。

僕の担当のケニー先生ならきっと助けてくれる。

救われる価値のない僕でもきっと何かを与えてくれる。



今はそう信じるしかなかった。