「いってきまぁす」



「いってらっしゃい。

心配だから、絶対遅くなっちゃだめよ?あと、挨拶はちゃんとして、行儀よくね」



「うんっ、わかってるよー」



玄関で靴を履く蒔に、いつもの約束事をする。

くるっと振り返った彼女が腕を伸ばしてきたから、すこし屈んでその身体に腕を回し、ぎゅっと抱きしめた。そして、ふふっと笑い合って。



「いってらっしゃい」



お菓子と遊び道具の入ったバッグを持たせ、手を振って彼女を見送る。

一緒に外に出ることが多いから見送るのってなんだか慣れなくて、落ち着かない。



週末。

ともだちの家に行く蒔と、ハセと出かけるわたし。




ひとりになった家の中でバッグに荷物を詰めて、忘れ物がないか確認してから家を出る。

ハセの部屋は6階だから、一瞬考えてエレベーターを使わずに階段でおりた。



ピンポーン、とベルを鳴らす。

数秒して扉から顔を出したハセは、「おはよ」とわたしに微笑んで。



「もう昼だけどね。すぐ出れそう?」



「ん。ちょい待って」



そう言って一度部屋に引っ込み、すぐに外へ出てくる。

「暑いね」と言いながら、ふたりで炎天下に身を投じた。



「髪結んだの?」



暑いから、さすがに手をつなぐようなことはしない。

触れず離れずの距離がなんだかまだ初々しいカップルみたいで、ちょっとだけジリジリと言いようのない感情が湧いた。