フェリクスに促されアルノー伯爵家の別邸に通された美鈴は屋敷の中を見て思わず息をのんだ。

 玄関ホールの床材は白大理石のような模様が入った石が敷き詰められ、二階へ続く階段が奥に見える。

 階段には深海を思わせる青色のカーペットが敷かれており、踊り場の天井には金色の波を模したデザインのシャンデリアが、窓からの微光を受けて鈍く光っている。

 邸宅の外観から受ける印象を裏切らない、上流貴族の品格を保ちながらも落ち着きのある、洗練された内装だった。

 フェリクスは白い窓枠の大きな窓のあるサロンルームへ美鈴を通すと、彼女をそっと柔らかい布張りの椅子に座らせた。

「こちらでお待ちを。すぐに手当の用意をします」

 そう言って優雅な動作で軽く一礼すると、美鈴をサロンに残してフェリクスは一旦(いったん)その場を離れた。

 そっと周囲を見渡すと薄青の石で造られたマントルピースの上には、肖像画ではなく、花飾りのような縁取りを施した丸型の鏡がかかっている。

 足元のカーペットも、厚みがあるしっかりとしたもので、エジプシャンブルーにミモザの花のような薄黄色の花の文様が散らされていた。

 家の顔であるサロンの調度品や玄関部分、ひいては屋敷全体を「青」を基調として統一しているのであろう、この屋敷の意匠(いしょう)は、フェリクスの少し(かげ)のある雰囲気と見事に調和しているように美鈴には感じられた。

 しばらくすると、コートを脱いだフェリクスが、濃紺の唐草のような(つた)模様が描かれた白地の湯桶(ゆおけ)を持ち、布を腕にかけて戸口に現れた。

「まず、足を洗いましょう……」