……いったい、どこまで続いているのかしら。

 まるで濃緑のトンネルのような、どこまで続いているのか一目では見当もつかない長い並木道を歩きながら、美鈴は考えた。

 馬車も通れるほど幅の広い並木道はところどころ大きくカーブを描いていて先を見渡すことはとてもできそうにない。

 この世界にやってきたばかりの美鈴の知るところでないのだが、この幅広な並木道はところどころでさらに幾本もの枝道に分かれている。

 「恋人達の森」の名に相応しくそれらは密会する男女のための恋の小路でもあるのだった。

 ……メインストリートはこの一本道だもの、迷うことはない……わよね。

 さらに奥へと進んでいくと予想に反してメインの並木道自体も何か所か分岐していることに美鈴は気づいた。

 ……落ち着いて目印を覚えながら歩けばいいわ。折を見て引き返せば、きっと大丈夫。

 そう思いながら、さきほどより歩調を緩めて、美鈴は森の中を進んでいった。

 森の澄み切った空気を深呼吸すると、自然と気持ちが落ち着いてくる。

 貴族やブルジョワ階級の住む住宅街にほど近いこともあって並木道のあちらこちらで身なりのよい紳士淑女、親子連れなどが午後の散歩を楽しんでいる。

 美鈴のような貴族令嬢の姿をちらほらと見かけることはあっても、先ほど出会った令嬢のような家族連れか恋人や召使いらしき男性を伴っており、一人で歩いているのは美鈴くらいのものだった。

 時折、チラリ、チラリと好奇心を含んだ視線を投げかけられながらも、美鈴は令嬢らしく優雅な足取りで森の奥へと進んでいった。

 並木道の分岐点をいくつか通り過ぎ森の奥に進むにつれ、だんだんと人影がまばらになってきた。

 ……そろそろ、引き返した方がいいのかも……。

そう美鈴が感じたまさにその瞬間、少しハスキーな、それでいて意志の強そうな男の声が美鈴に投げかけられた。

「……ご令嬢、ハンカチを落とされましたよ」