俺の長い独白を、妻は涙を目に湛え、じっと聞いていた。


そして、全てを語り終え、俺が妻を見ると、彼女は視線を外した。気まずい、としか言い様がない空気が2人の間に流れる。


「なんなんだよ、それ!」


それを破った鋭い声。振り向くと、いつからいたのか、そこには次男の姿が。


「2人して、何やってんだよ。この家庭は、結局、偽りと裏切りの上に成り立ってたんじゃねぇか。ふざけんな!」


叫ぶ次男に、何も言えず、下を向く俺達。


「最低だな、あんたら。」


俺達を睨んで、そう吐き捨てるように言うと、次男はそのまま、家を飛び出して行く。


本当に俺達は、何をしてたんだろう。「偽りと裏切りの上に成り立ってた家庭」、立派に成長して、社会に出ている息子にそんなことを言わせてしまった俺達夫婦は、まさしく最低であり、人としてあり得ないと言われても仕方がない。


次男がいなくなったあとの、2人きりの空間。言葉もなく、向かい合うこともなく、別々の方向を見て、黙然として座っている俺と妻。


どのくらい時間が経ったのだろう。このままじゃどうしようもない、俺は妻を見た。


「朱美。」


こんなに妻の名を呼ぶのに、勇気が必要だったのは、初めてだった。その声に、妻が俺を見た。


「何だったんだろうね。」


泣き笑いの顔でそう言った妻。


「私達の25年、ううん30年か、出会ってから。」


「・・・。」


「私がそんなこと言う資格、本当はないんだろうね。でも・・・。」


そこで一回、言葉を切り、俯いた妻は、次に顔を上げると


「やっぱり、許せないよ!」


そう言うと、部屋を出て行った。