結局ほとんど眠れないまま、朝を迎えてしまった俺は、とりあえずシャワーを浴びようと寝室を出た。


前夜、妻は寝室に入っては来なかった。1人にしてくれという俺の言葉を、受け止めてくれたのだろう。


1階に降りて行くと、キッチンから音が聞こえて来る。妻が朝食の準備をしているのだろう。俺は、そんな彼女に声を掛けることなく、浴室に入った。


シャワーを浴び終え、身支度を整えて、ダイニングに入ると、既にテーブルにはきれいに朝食が並べられ、妻が項垂れたように座っている。


「おはよう。」


俺のその声に、ハッと顔を上げて、振り返った妻の顔には、明らかに泣き腫らした跡が。恐らく彼女もほとんど寝てないのだろう。


「おはよう・・・ございます。」


いつもは明るく「おはよう」と返してくれるのに、俯いておどおどと、といった様子で応える妻。そんな彼女を正視出来ないでいると


「隆司さん、あの・・・。」


とまた、跪いて謝罪の態勢に入るから慌てて


「清司は?」


と尋ねる。その俺の問いに、妻は悲しそうに首を振る。


「そうか・・・。」


やはり次男は帰って来なかったようだ。大人になったとは言え、母親の不倫というショッキングな事実を受け入れることは、簡単ではないのだろう。


「じゃ、行って来る。」


「身体に触るから、朝食をちゃんと・・・。」


「すまん、食欲がない。せっかく用意してくれたのに。」


そう言って、出掛けようとする俺に


「ごめんなさい。」


とまた深々と頭を下げる妻。


「とにかく今晩、キチンと話をしよう。だから・・・あまり、思い詰めないでくれ。」


憔悴しきっている妻を、これ以上見ていられなくて、俺は逃げるように会社へ向かった。