いずみが目が覚ましたのは、自分のお腹の音でだった。あまりにふかふかのお布団にすっかり眠りこけていたらしい。気が付くと部屋の中は暗かった……が、六畳一間の自分の部屋と違うことくらいは分かる。

「嘘っ、まだ戻れてない。本当にここどこっ」

先ほどは精神的に参りすぎていてよく周りも見ていなかったが、部屋の中は相当豪華なつくりだった。
二十畳くらいありそうな広さに、デデンと置かれた天蓋ベッド。真鍮製と思われる豪華な燭台が壁につけられていて、マントルピースの暖炉が据え付けられている。

とはいえ、いずみにはどうやって火をつけたらいいのかもわからない。途方に暮れてしゃがみこんでいると、扉がノックされ、「イズミ様入ってもよろしいでしょうか」と女性の声がする。

「はいはい」

いずみは駆け寄り、急いで扉を開ける。……と、面食らったようにメイド服の女性は目をぱちくりとさせた。

「え……あ、も、申し訳ありません! お手間を取らせてしまって」

「いえ。こちらこそ。その、……あの」

あからさまに恐縮したメイドの態度に、いずみの方が慌てる。

(もしかして、……扉を開けて出迎えるのはおかしいのかな)

いずみは戸惑ってしまった。この世界の常識がわからないのは不便だ。

「気にしないで。それより何の用かしら」

笑顔でそう言うと、メイドはホッとしたように顔をほころばせた。