やがて、侯爵家にたどり着き、馬車が止まる。いずみはアーレスにエスコートされて馬車を降りた。

「うわ……」

目の前の屋敷は城ではないはずだ……が、城かと見まごうような豪奢な屋敷だ。
辺りは森かと見まごうような庭園が広がり、常から人が集まるのだろう。正面玄関の前は、馬車が複数台すれ違えるだけのスペースがある。
王都の一等地にあるはずなのに、まるで別荘地にでも来たようだ。

「ようこそ、アルドリッジ侯爵家へ」

先に馬車を降りていたグレイスが迎えてくれる。アルドリッジ伯爵も在宅中だったようで、玄関からグレイスに向かって走ってくる。

「グレイス! マイハニー。お帰り。お客様かい?」

公爵はグレイスを抱きしめるとキスの雨を降らせる。それを受けるグレイスも慣れたもので、夫のするがままに任せていた。

しかし、見ているいずみにはだいぶん刺激が強かった。

(これが外国……いや異世界の挨拶なの? いや待って、私、アーレス様にこんな熱烈な出迎えしたことないけど。……見てられないわ)

顔を両手でふさぐと、頭の上からアーレスのため息が髪にかかった。

「そろそろ離して、フランク。お客様が見ているでしょう?」

「アーレス殿だろう? 今更だ! 君に離れていた時間を取り戻すにはこんなものじゃ足りないよ」

「今日は弟だけじゃないのよ」