第二章 婚約者からは逃げられない


モデルハウスのオープンまで三カ月を切り、彩実は忙しい日々を過ごしていた。

すでに内装と外構工事も終わり、モデルハウス内に設置する家具や電化製品などの準備を行っている。

彩実は、モデルハウスという入れ物が完成し、具体的にイメージしながら内部を整えていくこの時期の仕事が一番好きだ。

とくに今回は人気の家具店、小関家具とのコラボだということで、部内の士気も上がっている。

朝から小関家具の担当者である小関忍と打ち合わせを続けているが、彼もまた今回の企画に熱心で、何度もモデルハウスに足を運んでいる。

今年二十七歳の忍は、小関家具の二代目社長である小関治の長男で、大学で設計とデザインを学び小関家具に入社した。

子供のころから工房に入り浸って職人たちと過ごしていた彼が、自らの意志で小関家具に入社するのは自然の流れだった。

忍が後継者として歩み始めたことを、周囲の誰もが喜んでいる。

治がまだ五十二歳と若く、しばらくは引退しないと宣言していることもあり、忍自身は経営の勉強など二の次で、現場でいち職人として奮闘中だ。

デザイン関連のコンクールにも積極的に参加し実力の底上げにも前向きな忍は、同じ大学を卒業した彩実にとっては尊敬すべき先輩でもある。

「このベッドをモデルハウスの寝室に使ってみないか?」

会議室の大きな机の上にいくつもの資料を広げ、彩実と忍はその端に隣り合って座り打ち合わせを続けている。

「これって、新作?」

「そう。ターゲットが三十代で、使っているマットレスは有名な寝具メーカーに特別に作ってもらった自信作。年明けの発売を予定してる」

彩実は目の前に広げられたカタログを食い入るように見る。

忍が提案したベッドは木製の脚付きタイプで、棚有りのヘッドボードがついている。