第五章 あなどれない旦那様  


手触りのいい、優しいなにかに包まれながら、彩実は目を覚ました。

「あれ……」

ぼんやりと視線を動かすと、苦渋に満ちた表情で彩実を見つめる諒太と目があった。

「気分はどうだ?」

「え、私……どうして」

覚醒していく意識の中、彩実は辺りを見回した。

そこは新居のベッドの中で、諒太に抱きしめられたまま眠っていたことに気づき、彩実は慌てて起き上がろうとするが、諒太がそれを許さない。

結婚祝いにと諒太の両親からもらったシルクのパジャマをふたり揃って着ているが、まさか諒太が着替えさせてくれたのだろうかと考えた途端、彩実は恥ずかしくて顔が熱くなるのを感じた。

「泣き疲れて眠ったんだ。慌てて起き上がってめまいでも起きたら大変だ。しばらくじっとしていろ」

諒太は彩実をぎゅっと抱きしめ、離そうとしない。

「諒太さん、あの、離してください、それに、どうして私……」

とにかく諒太の腕の中にいるのが恥ずかしく、どうにか起きようと諒太の胸を押し返してもびくともしない。

おまけに声はかすれて頭も重く、全身に漂う倦怠感。

思い通りにならない体に、彩実は諒太が言うように泣き疲れて眠ったことを思い出した。

何故泣いていたのかもすべて思い出し、疲れている体がさらに重くなった。

消去して二度と聞くことはないと思っていた男の声がよみがえり、ぶるっと震え、諒太の体にしがみついた。

諒太は即座に彩実を抱きしめ返し、いたわるように背中を上下に撫でる。

「大丈夫か? 水でも持ってこようか」

彩実はぶんぶんと首を横に振ると、諒太が離れて行かないようにさらに強くしがみついた。

これまでこうして諒太に抱き着くなど想像もできなかったが、今の諒太に彩実を拒もうとする様子はまるでない。

いつもの彼とは違うような気がして、自然と素直になれた。