第一章 ひややかなお見合い



残暑厳しい九月半ば、リニューアルオープンを三カ月後に控えた住宅展示場内の一画ではスマホで通話中の若い男性を囲んだ十人ほどが、期待に満ちた表情を浮かべていた。

 
「さきほど役員会で小関家具さんの商品をモデルハウスで使うことが承認されたそうです」

通話を終えた男性の声に、その場にいた誰もがホッとした表情を浮かべた。

「住宅展示場で小関家具さんの商品を置くのはうちが初めてだから、きっと大きな話題になりますよ」

「そうね。大量生産していないからって小関さんに渋られたときは焦ったし、うちの頭の固い役員たちが簡単にOKするとは思えなかったからね。でも、いい商品だから絶対使いたかった」

如月彩実は大きな笑みを浮かべ、胸の前で軽くガッツポーズを作った。

その瞬間、背中の真ん中あたりまでまっすぐ伸びた栗色の髪が、夕方の柔らかな日差しに輝き、揺れた。

眉より少し上で切りそろえられた前髪の下から覗く大きな目は髪の色よりも少し濃い茶色で印象的だ。

長く豊かなまつ毛に彩られ、見つめられれば誰もが引きつけられる。

彩実はなにもしなくても赤く形のいい唇の間からふふっと小さな笑い声をあげた。

ようやく理想のモデルハウスを完成させられそうでスキップしそうになるが、他のハウスメーカーの人間や現場で工事を続ける作業員たちも多いと気づき、ぐっとこらえた。

オープンしてすでに三十年が経つ住宅展示場は、広い敷地内のどこも劣化が目立ち、半年前から全面改装工事が行われている。

現在、展示場一帯の工事とともに、十八の住宅会社が合わせて二十棟のモデルハウスを新しく建設している。

住宅会社大手の『如月ハウス工業』も住宅二棟を新築した。

一棟は二世帯住宅で、建築面積も広く内装工事もほぼ終わり家具の搬入も完了している。