3話「プロポーズの理由」



 目の前でプロポーズをしてくる男を見て、緋色は何て不思議な人なのだろうと、思った。
 
 いきなりぶつかってきて、眼鏡を壊されたのに怒りもしない。お見合いから逃げて来たと知ると、一緒に走って逃げてくれた。怪我をしたのを見れば抱き上げてくれ、傷の手当てまでしてくれたのだ。
 
 これが知り合いだったのならば、まだ理解は出来たかもしれない。
 しかし、彼とは先ほど会ったばかりの人なのだ。

 その彼に、告白もされずにプロポーズをされるとは思ってもいるはずもなく、緋色は唖然としてしまった。


 「あ、あの………結婚って私とですか?」
 「はい。もちろんです。」


 驚いている緋色とは違い、向かい合う彼は真剣な顔だけれど、どこか楽しそうに微笑んでいる。
 緋色は怪訝な顔を浮かべて、その男を見つめた。


 「………出会ってすぐの女性にプロポーズ出来きるんですか?……初めて会った人と結婚なんて………考えられません。」
 「では、また親の見合いを受け、いつかは親の決めた人と結婚するのですか?」
 「そ、それは………。」


 男のいう言葉は、緋色に現実を突きつけるものだった。自分では思っていても、他人から言われるとやはり現実味を感じてしまうものだ。
 いつかは、見合い相手と結婚するのだろう。そんな事を思ってしまっていた。
 男性が苦手な自分が、恋愛など出来るはずもない。そう決めつけていたから、自分で相手を見つけることすらしていなかった。


 「今は初めての会った人ですが、これからは知り合いになります。それに初めはみんな「初めまして」なんです。自分でいうのはおかしいかもしれませんが、俺は変な人ではありませんよ。」
 「………自分で普通は言わないです。」
 「そうですね。」


 男は楽しそうに笑っている。
 突然のプロポーズに動揺しているのは自分だけのようで、緋色は何だか悔しくなってしまう。