プロローグ




 嘘は嫌い。
 
 昔はそう思っていた。


 けれど、こんなにも優しい嘘があるのだと知ったのはつい最近で。
 緋色は彼がついた嘘を何度も思い返しては、心が高まりそして切なくなってしまう。


 彼は緋色にとっていつも優しくて頼りになって、怖がり泣いている時に手を差し伸べてくれる。


 それなのに、どうしてだろうか。


 どんなに気づいてと叫んでも、わかってはくれない。
 違うと言っても、彼女の耳には届かない。


 それがとても悲しくて、悔しかった。



 緋色は彼と微笑み合える時間を夢見て、ゆっくりと目を閉じた。
 

 今は、まだ眠っていた方がいいようだ。
 そんな気がしたのだった。