富井さんに会うと決めた私は、シャワーを浴び、あまり食欲のない身体に温かいコーンスープだけ与えて、呉服屋の場所を調べた。

簡単にメイクを済ませ、カジュアルなパンツスタイルに着替えたら、すっきりと晴れた冬空の下へ繰り出す。

左手の薬指にはダイヤモンドがきらめいている。休日はいつもつけていて、そのたび幸せな気持ちになるのだが、今日は少々切ない。

目黒駅から五分ほど歩いたところに歴史を感じる土蔵造りの建物があり、中には華やかな着物が飾られているので、ここだとすぐにわかった。

店に近づくと、ちょうど中にいた富井さんが私に気づき、目を丸くして外へ出てきた。


「おはようございます。朝からすみません」

「希沙ちゃん! どうしたの!?」


幻でも見ているかのごとく驚いている彼に、私はキョトンとして問いかける。


「富井さん、私に来てほしいって言ってたんじゃないんですか?」

「いや、そうなんだけど……本当に希沙ちゃんのほうから来てくれるとは思わなかったから」


徐々に喜びを露わにする彼がなんだかおかしくて、クスクスと笑いがこぼれた。