─Side*周─

自分の家が普通の家庭とは少し違うと感じたのは、小学生の頃だった。

まず、友人たちは両親と敬語で話したりはしない、と知ったのが最初だったと記憶している。今では気を遣わないが、幼い頃は敬語で話すようしつけられていたのだ。

礼儀作法やマナーを徹底的に叩き込まれるのは、俺の家に限ったことではないかもしれないが、食事をするとき箸の汚れは三センチ以内に留めろ、とまで注意される家はなかなかないだろう。

家族の前でも、寝巻のまま顔も洗わずに会うのははしたないとされ、母は毎朝俺と対面するときも化粧を欠かさなかった。

部屋を汚すだなんてことは言語道断で、常に己を律して行動しろと指導されてきたのである。

だから、自由気ままにだらけて生きている希沙には、驚きを通り越して呆れたし、その一方で、彼女の生き方を少し羨ましいとも思った。

俺もそんなふうに、誰の干渉も受けずに生きてみたいと。