昼休み中、教室に山本先生が入ってきた。
そのまま黒板の端に何か書き始める。

黄色で「7時間目終わったら体育館へ移動」の文字。

山本先生が私たちの方を向く。

「えーと、さきほど野球部が商業高校に負けたという情報が入りました。放課後、掃除の前に体育館で報告会があるので、7時間目が終わったら移動することを忘れないように。」

クラス全体から落胆の声が漏れる。

ポケットの中でスマホが震えた。
少し取り出して覗く。
平良からだ。
通知だけで読めてしまった。

「負けた。ありがとう。」

少ない文字なのに、私の心の真ん中がズンと重くなる。

「商業高校強いもんね。」

彩乃がフォローするように言う。

「平良も投げっぱなしだったから、頑張ったよ。」

弥恵もなぜか私を励ますように言う。

「平良、大丈夫かなあ。」

思わず自分の口から出てハッとした。

3年生の引退がかかった試合で、2年なのにピッチャーで出てた平良。
プレッシャーもすごくあったはずなのに、私はそこまで気遣ってあげられなかった気がする。
うちにいる時の平良は、微塵もそんな素振りを見せてくれない。
いっつも関係ない話をして帰っていく。

平良が言っていた通り、部活と勉強とで頭がいっぱいで、私とのことまで考える余裕なんてないんだ。
本当に最初から「彼女のふり」で良かったんだ。

彼女になったからって、平良に期待してた私がいたなあ。

「沙和、大丈夫だよ。平良は頑張ったってみんな分かってるよ。」

「沙和も今日一日緊張してたよね。」

私の表情が曇ってたのか、彩乃と弥恵が心配してくれた。
味のしないお弁当を食べて昼休みは過ぎていった。