「へぇ、またあの兄ちゃんがねぇ。一体何者なんだろうな」
「わかったら苦労してねぇよ」

 腕を組み難しい顔をするアルさんにラグが不機嫌極まりないというふうに答えた。

 ラグの怒声はやはり階下まで聞こえていたようで、セリーン達が戻るとすぐに女将さんが上で私たちが喧嘩しているようだと教えてくれたらしい。
 セリーンは誤解だとわかってもまだドアの前でラグの方を睨み見ている。

「あんなふうにいきなり現れたり消えたりする術なんて聞いたことねぇもんな」
「あ、そうなんですか?」

 魔法のような力が存在するこの世界。てっきりエルネストさんのあの不思議な姿も術の一種なのかとずっと思っていたが。

「ま。俺も術の全てを知りつくしているわけじゃねぇけどな」

 術士であるアルさんが笑いながら言う。
 ――ふと、ラグとアルさんとではどちらが強いのだろうという疑問が浮かんだ。ラグはアルさんのことを先輩みたいなものだと言っていた。とするとやはりアルさんの方が強いのだろうか。

「カノンはもう平気なのか?」
「あ、うん! もうすっかり!」

 ふいに訊かれ笑顔で答えるとセリーンは少しだけ表情を和らげた。