「…………」
遠く、何か聞こえた気がした。
「……華音」
それは私の名前。
誰かが、私の名を呼んでいる。
目を開けて声の主を探そうとしたけれど、辺りは真っ暗で何も見えない。
それとも、私はまだ目を瞑っているのだろうか?
「華音」
「華音」
次第に増えて行く声。
それは徐々に大きく、切羽詰まったものへ変わっていく。
「華音!」
そして気付く。
この声は、母のものだ。
「華音! どこなの、どこに行ってしまったの、華音!!」
泣き叫ぶその声に、胸が痛いくらいに締め付けられる。
(――お母さん、お母さん!!)
その呼び声に答えるように叫ぶ。
でもやはり何も見えず、ただずっと母の叫び声だけが頭に響く。
「華音!!」
次に聞こえたのは父の声。
聞いたことのない、悲痛なその声に私はまたありったけの声で叫ぶ。
(お父さん、私はここにいるよ! お父さん!!)
父と母の声が重なって、でも姿が見えなくて、どうすることもできなくて、私は絶望する。
急に、冷たい風が全身を襲った。
寒くてこれ以上動けなくてその場に蹲ると、今度は友達の声が聞こえてきた。
皆泣いている。泣きながら私を呼んでいる。
もう一度顔を上げて私は叫ぶ。
(私はここだよ!)
「華音!」
ひと際大きく聞こえたその声はとても懐かしいもの。私はその名を呼ぶ。
(響ちゃん!)
叫ぶと同時、闇を割って一筋の光が差し込んだ。
こちらに差しのべられる大きな手。
私はそれを掴もうと必死に手を伸ばし――。
「うわっ」
確かな感触と、驚いたような声に私は重い瞼を開けた。