ノーヴァに着いたのは、それから一時間ほど後のことだった。
 その町は、まるで城壁のような厚い壁に四方を囲まれていた。

 セリーン曰く、今はどちらの国にも属さない独立した町として確立しているノーヴァだが、昔はそのときの戦況によってその都度エレヴァートとランフォルセどちらかの占領下におかれるというなんとも酷い歴史を辿ってきたらしい。
 この壁はそんな歴史から解放されるため、昔のノーヴァ人が築きあげたもの。
 二国が平和条約を結んで久しい今では、両国を行き来する旅人の絶好の中継点として栄えているのだそうだ。

 今雪にこんもりと埋もれたその壁を見ても当時の物々しさは全く感じられなくて、寧ろ、

(ちょっと可愛いかも)

そんなことを思いつつ入り口の門を抜けると、道なりに同じく雪に埋もれた白い家々が立ち並んでいた。

 暖炉があるのかそのほとんどの家から煙が立ち昇り、更にそろそろお昼時なこともあって良い香りがあちこちから漂ってきて、からっぽの胃がこれでもかと刺激された。
 人通りはまばらで、雪のせいもあってかひっそりとした町という印象を受けた。

「また降り出してきたな」

 そんなセリーンの声に天を仰ぐと、丁度ひとつ雪が舞い降りてきて私の頬の上で溶けていった。

 ――あ、マズイ。そう思った時にはすでに遅く、

「はっくしょぃ!」

またしても盛大にくしゃみが出てしまった。