「 え…? 」
低く掠れたその声は、間違いなく私に向けられているものだった。
恐る恐る髪に隠された目を覗いてみると、その黒く濁った瞳には、頬から花を咲かせた自分が映り込んでいる。
慌てて服の裾で覆われた手で隠すものの、きっと、もう手遅れだ。
『 あー…そういうことか。 』
どうしよう。未来に住んでいる、全く関係ない人に咲いた花を見られてしまった。
話しかけられた驚きと、花を見られてしまった恐怖や不安で何も言えないでいると、その男性は小さく呟き、再び私の顔を覗き込んだ。
『 お前、未過 椿煌だろ。 』
「 え…?どうして、 」
『 俺も、あの人の患者だから。 』
何を言われるのか、怖くて仕方が無かった。
辛うじて病名が付けられているものの、この時代でも珍しい病気。もしこの人が悪い大人だったらどうしよう、あの研究者達のように、何かを企んでいたらどうしよう。
そんなことが頭を埋め尽くしていたものの、その恐怖は、彼の口から出た言葉によって一瞬にして飛んでいってしまった。
あの人、とは、きっと緋衣先生のこと。じゃあ…私の名前を知っているのは、もしかして。
『 それに、柊空からもよく聞いてる。 』
「 …貴方は、 」
『 大丈夫だ。お前の病気のことは前から聞いてるし、んな怖がんなくてもいい。 』
彼はマスクをずらして口元を見せると、少しだけ口角を上げてそう言った。
上げられた手に肩を震わせると、頬に当てていた手をそっと離され、そこに咲いた花を至近距離でじっと見つめられる。
前に緋衣先生が話していた、柊空さんと親しいという患者さん。
糖尿病を患っていて、週二何度かあの病院に通って、その度に柊空さんの所に顔を出してくれてる、って…。