ぼとん。

 鈍い音がして我に返ると、目の前のお皿に、箸でつまんでいたはずのブロッコリーが落下していた。

 ゆで過ぎてしまったそれは、力なく皿に横たわっている。

「おい、大丈夫か」

 顔を上げると、裕ちゃんが呆れ顔でこちらを見ている。

「さっきからずっとボーっとしてる。何を話しても上の空だし」

「えっ、あっ、ごめん。何の話だっけ?」

 夕方あんな話をして、考え込むなという方がムリだ。

 そりゃブロッコリーもゆで過ぎるよね。

「新婚旅行。そろそろ準備していかないと」

「ああ……」

「飛行機のチケットや宿泊先の名前を、希樹に変えておかないと。さすがに他人のパスポートで出国したりするのはまずいだろ」

 結婚もしていないのに、新婚旅行。

 もともとピンときてなかったのに、ここにきてますます、どこか遠い国の習慣のように思える。

「何かあったときに、パスポートと別の名前を名乗っていたんじゃ、ややこしくなりそうだものね」

 なんとか答えると、裕ちゃんはうなずいた。

「何もないのに越したことはないけどな。風邪ひいて熱出したり、そういうことがないとは言い切れない」