医者の言葉が頭から離れない。
「悪化していますね……」
 その一言がどれだけ重いものなのか。
余命宣告を受けた俺ならわかる。

 病院の角で立ち止まった。
悔しさのあまりに壁を拳で叩く。
だが、その時浮かんだのは彼女の顔だった。
「梨沙ちゃん……」
 少しの間一点を見つめ、前を向く。
こんなことで負けてられない。
もう少しなんだ。
だから……
今日言おう。

 彼女の隣に座った時、もう一度、決心した。
彼女の言葉を聞いて、やっぱり負けられない。そう思った。

 「梨沙ちゃん。送っていくよ」
 彼女との時間を過ごした後、俺たちは手を繋いで彼女の住む場所に向かう。
その間は忘れていた。
自分が病人だという事。
自分の余命があと5ヶ月だという事。

 「ありがとうございました」
「じゃあね」
「はい」
 彼女の後ろ姿を俺は目に焼き付けるように見つめた。家に入るその時まで。
「誰だよあんた」
 後ろから声が聞こえ、振り向くと、彼女と同じくらいの少年が立っていた。
きっと、彼女が一緒に住んでいる幼馴染だというのは目つきで分かった。
彼女の事を想っているのは俺だけじゃなかったんだ。
「言っとくけど、梨沙は渡さないから。梨沙の事守ってやれるのは俺だけだから」
 そういって彼は梨沙と同じ家へと姿を消した。
確かにそうかもしれない。
でも、今は負けるわけにはいかないんだ。
彼にも。病気にも。

 帰り道、彼女と繋いだ手を見つめ歩いた。
彼女の温もりは今までの人生の中で何よりも温かかった。
だが、そんなのもつかの間。
急に苦しくなり、その場に崩れ落ちる。
その後、俺は知ることになる。
彼女の横にいられるのは残りわずかだと……