私は言わなければいけない。八重樫くんに伝えなければいけないことがある。

 その思いが、朝からさくらの気分を降下させていた。朝の通勤ラッシュの満員電車に揺られながら、物思いに耽る。

 何も言わずに煉が目覚める日まで、ずっと傍に居てくれた彼を──八重樫くんを、私は今日という日、きっと深く傷付けてしまうのだろう。そう思う度に足が竦み、動くことが怖くなってしまう。

 このままずっと、仲の良い友人で在りたかった。でも、それはきっと叶うことはないのだろう。大人だから、尚更、簡単には思いを割り切ることは出来なくて、とても難しい。
 
 思いを伝える覚悟が出来るまで、数日間もの時間が掛かってしまった。それでも、一つのけじめを、終わりを告げなければいけないと私は思っている。

 『お前が全てを背負う必要はない』

 今朝、部屋を出る前に煉に言われた言葉が、胸をきゅっと締め付ける。だからこそ私は、八重樫くんの誠実さに不誠実で返してはいけない。甘えてはいけない。

 電車が最寄りの駅に停車し、乗客たちが次々に降車していく。さくらは流れに合わせホームに降り立つと、気合いを入れるために自身の頬を小さく、ぱちんと叩き、拳を握った。

「……よし、行こう」