「佐倉先輩をつぶさないでください」

まっすぐな瞳で
彼女は私に頭を下げた。

太陽の日差しもきつくなり、期末テストも終わって夏休みに入ろうかというある日。

放課後、私は2年生の陸上部のマネージャーの女の子に呼び止められた。
ちょうど、進路指導室に大学の資料を取りにいく途中だった。

何か所か志望校を絞って
遊馬くんとも同じ大学に行こうねと話ししていた。
成績優秀な遊馬君が行く大学は同じ学部は無理だけど
私でもがんばればいけそうな学部があったから
同じ大学を目指そうと二人で話していた。



「佐倉先輩のチャンスをつぶさないでください。」
陸上部マネージャーの・・田中さんだった。

田中さんの私をまっすぐ見るまなざしに思わず視線をそらす。

私が遊馬くんといるとき、
私が遊馬くんの練習を見ているとき
私が遊馬くんの部活が終わるのを待っていた時

彼女の私をみるまなざしはいつも厳しかった。

そして彼女が遊馬くんを見るまなさしにいつも不安だった。

いやでもわかってしまう、田中さんはわたしと同じだ。

田中さんは遊馬くんのことを・・・きっと。



田中さんの気持ちがわかるから
私は彼女が‥怖かった。

田中さんを前に緊張で胸の動悸がとまらない。

「・・・私がなにかしたのかな」
絞りだした言葉に田中さんは私を一瞥した。

「佐倉先輩、T大学から陸上の推薦の話があるのは知ってますよね」
「え・・」
「佐倉先輩から聞いていないんですか?今度のインターハイで成績残せたらってT大学から声かけられているんですよ!」

ただ聞くしかない私に田中さんは追い打ちをかけるように話しを続けた。

「T大学は陸上でも強豪校で佐倉先輩ならもっと成績伸ばせるんです。日本代表だって夢じゃない。だけど・・佐倉先輩は断っているんです。」
「えっ・・」
「森本先輩のせいですよ!佐倉先輩の未来をつぶさないでください!佐倉先輩、陸上やめるって今度のインターハイでやめるって・・」
田中さんは大きな瞳に涙をためていた。

「全部、森本先輩のせいです!好きな人の将来をつぶすなんて最低!」

吐き捨てるように言ってばたばたと立ち去った。

がくがくと足が震えて崩れて
しゃがみこんでしまった。

遊馬くんの推薦の話・・
聞いていなかった。

私に遠慮してた?
T大学・・って地方の大学だから?
私が一緒にいけないと思ってた??



なんで
私に話してくれなかったの?

私が知らない話を田中さんが知っているのはなんでなの?


廊下に丸いシミができて、泣いているのだと気がついた。

わたしはやっぱり遊馬くんにとって、、、。

涙を拭って立ち上がろうとした時、背中に温かい温もりを感じた。


「泣くな」

ぎゅっと強く背後から・・・・抱きしめられた。