――今、こんな場所じゃなきゃ、お前のことを抱きしめていたかもしれない。

チャポンと水音の響く誰もいない大浴場で、私は大きな大理石の湯舟に顎まで浸かりながら安西部長の言葉を頭の中で何度も繰り返していた。

窓の向こうには夜の闇が広がっている。

それがなぜか、安西部長の心の闇のように思えて、また彼のことを考えてしまうのだった。

私、もしかして安西部長に惹かれてる? ううん、違う違う! きっとフラれたばかりで誰かにすがりたいだけ、視察で安西部長と一緒に過ごす時間に惑わされてるだけ……。

そう自分に言い聞かせても、気を抜けば彼のことばかりが巡っている。

それにしても安西部長にあんな過去があったんなんて、左遷なんてあんまりだよ……。

安西部長は頑張り屋だから、きっと辛かっただろうな……信頼していた上司に裏切られるなんて……私だったら耐えられない。

部下に自分の辛い過去を話すだけでも躊躇しただろう。それでも私に話してくれたのは嬉しい。だからなにかできないかとあれこれ思い悩んでしまう。

もう! 考えててもしょうがないじゃない、早く部屋に戻って仕事しなきゃ……。

ブンブンと頭を振って湯舟から出ようとしたときだった。