『先輩、おはようございます。』
『お、おはよ…』

 早朝の給湯室。私たち二人だけ。朝から無駄にかわいい文月くん。くやしい。ちょっとだけでも彼に会いたくて早く来てみたのに。嫌なもの見ちゃった。

『先輩、何だか怒ってません?』
『……』

 色素の薄い前髪が私のおでこにかかる。シトラスの香水がふわっと香る。近い。勝手にドキリと音がする心臓。ダメダメ。怒っているのににやけそうになる。

『ねぇ、先輩ってば。』
『……みちゃった……』
『え?』
『さっき受付の子と手つないでた……』
『ああ、あれ?挨拶したら勝手に手を握られたんだよ』
『文月くんがそんなにかわいいからでしょう…』

 文月くんが悪くないのはわかってるのに、どうしても責めてしまう。人気者だから。

『…何ニヤニヤしてるの…怒ってるのに』
『だって先輩がかわいいんだもん』

 急に整った顔が近づき、チュッっと音を立てて唇に軽く触れる。

『!!』

 柔らかく触れた感覚に目を見開き真っ赤になる私。

『先輩がかわいいこと言うからがまんできなくなっちゃった。』
『…な、な、』

 焦って言葉がでない。

『それ、やきもちだよね。うれしいなあ。』
『こっちは怒ってんのに…』

 満面の笑顔に何だか気が抜けちゃう。

『俺がこんなことするのは先輩だけですよ。心配しないでください。
先輩のそんな顔見れたから今日は早く来てよかった。俺、もしかして会えるかもしれないと思って早く来たんですよ。』

 え?私と同じ!胸がきゅっと苦しくなった。文月くんの手を引っ張り頬に口づけた。

『…え…』

 今度は彼が真っ赤に。

『不意打ち禁止です!もう!そんなかわいいことされたら我慢できなくなっちゃいます。』

 文月くんはそういうと私の腰を引き寄せ激しく唇を押し当てた。口のなかに暖かいものが入り込んでくる。

 朝の給湯室。誰かが来ちゃうと思いながらも止められない…