でもその夜。
 タイミングよく、だろう。カフェからのおつかいに「こんばーん」なんて手を振りながらやってきたシャイを見て、サシャは確信してしまった。
 他人の空似などではない。きっと血縁の方だ。だって、あまりに似ている。
 実際にシャイと向き合ってしまえば、写真はともかく隣町の馬車に乗る様子をちらりと見た、あの姿。あまりに似ていたのだ。
「あれぇ、サシャちゃん、今日はサボり?」
 カウンターの中でお酒を作る手伝いをしていたサシャを、シャイはからかってくる。
「違うわよ。今日はピアノの独奏だから」
 今日はピアノ専門の奏者がきていた。物悲し気なジャズを奏でている。
 だからサシャの歌は今日はお休み。客の前で歌うときのドレスよりはもう少し簡素な服を身に着けて、バーテンダーのお手伝いの日。
「あー、『干されちゃった』わけだ」
 前にサシャが買った言葉を借りて、シャイはくすくすと笑って、サシャも「やぁね」なんて笑いかけたのだけど、いつもどおりにはきっと笑えていなかっただろう。
 聞かないと。
 あれが一体なんだったのかを。
 シャイが王族の方とどういう関係なのかを。
「ねぇ、シャイさん」
 サシャの言葉に、例によっておつかいついでの一杯をやりながらシャイは「ん?」とサシャを見た。
 琥珀色の瞳。ああ、やっぱりあのとき拝見したものによく似ている。見慣れたこの色は。
「今日、お店が終わるの早い? このあとお話しできないかしら」
「お? なにかヒミツの話か?」
 シャイは嬉しそうに、そしてからかうような響きで言ったのだけど、サシャはそれには乗れなかった。普段なら「そうなの」なんてくすくす笑うのに。
「……そうよ」
 今は硬い声で、それしか言えなかった。
 サシャの様子が違うことに、シャイはすぐ気付いたのだろう。すっと目が細くなる。
「……そっか。じゃ、サシャちゃんが上がる時間に、また来るな」
「ありがとう」
 サシャの様子になにかしらを感じたのか、シャイは早々にグラスをカラにして「仕事戻りまーす。まったねー」なんてふざけた言葉を言って、帰っていった。
 その態度は普段はないもの、だったけれど。