糸side

「名前とか連絡先とか聞かなくてよかったの?
今度、電車で会う時、話しかけやすいんじゃないの?」


奈々ちゃんに曖昧な返事をしながら、彼のいる教室を後にした。

甘いパンケーキなんて、味もわからないくらいドキドキしていた。

詰襟学ランで見慣れている彼の違う姿が新鮮だった。
執事姿の彼も素敵だった。

彼の姿が頭から離れない。


こういう時、きっと、連絡先聞いたりとか話しかけたりするんだろうなぁ、みんな。
わたしは、どうしてもそういうのができない。
ただ見ているだけ。

もっと自分に自信があれば・・・
私に声かけられて迷惑なんじゃないかと思うから
どうしても積極的になれない。



奈々ちゃんと他の催し物をみてても、彼の姿があたまからはなれない。

もう一度、会いたい。
でも
迷惑かも。
私のこと知らないかもしれない。
そんなことをぐるぐる考えながら
校内をウロウロしていたら、
見慣れた長身の男の人を見かけた。

目があって

その次に見たのは

彼の腕に細くて華奢な腕が絡めた女の子。

まわりがざわざわしてて声は聞こえない。
でも、びっくりした彼の顔と、
親しそうに腕から首に手を回して抱きしめる細い体が目に入った。
彼を見つめる横顔は、とても可愛らしい人だった。


彼がわたしに目を向けて
何か言いたそうにしていたけど
私は踵を返してその場から逃げた。


奈々ちゃんが私の名前を呼んだけど
立ちとまることはできなくて
そのまま息が切れるくらい走って
走っていた。


やっぱりいるよね。
当たり前だよね。
あんなに素敵な人。
彼女いるのは当たり前。

いつも朝会ってるからって
そんなの、特別でもなんでもない。

右と左に立っているだけ。
話もしていない。
ただ、存在を感じているだけ。


それだけなのに、もしかしたら知ってくれているかもしれない?なんて
バカみたいなこと思ってしまった。


バカみたい。