糸side


彼はいつも同じ場所で本を読んでいた。

どんな本なのか
どんな本を読んでいるのか

駅の中にある書店オリジナルのブックカバーに隠れていてわからない・*。
その本のタイトルが気になっていた。


ちがう・・
本が気になっていたんじゃない。

彼がどんな本を読んでいたのか・・気になっていた。

彼は長いまつげを、伏せ目がちにして
静かに読んでいた。

わたしが乗る同じ電車。
同じ時間
同じ車両の進行方向一番前の扉側で
長身の体を少し預けながら
片手に本を持って立つ姿を
いつしか目で追うようになっていた。

そして彼の反対側の扉が、
わたしの定位置だった。