「だから……星奈は絶対にお星様になろうなんて思ってはいけないよ」

そう言って、お父さんは私の元からどんどんと遠ざかってゆく。

(嫌よ、お父さん……行かないで!)

私は叫ぶ……だけれども、その言葉は声にならない。
父のその大きな背中はゆっくり揺れながら前へ進み、徐々に小さくなってゆく。

(ダメよ、嫌……私を一人にしないでぇ!)

振り返りもせずに遠ざかるその後ろ姿を、私は追いかけて……だけれども、どれだけ追いかけても追いつくことは出来なくって。

私の目からは次から次へと、涙が頬を伝って落ちた。





はっと目を覚ますと、そこは薄暗くて……白い靄がかった洞窟の中だった。

「夢……」

私はぼんやりと呟いた。

そう……さっきまで見ていたのは夢。
その夢にうなされて、私の頬は伝った涙で濡れていた。

だけれども、今……自分がいるこの、信じられないような状況は現実。

目が覚めたのは、いつものベッドではなくって、冷たく固い洞窟のゴツゴツした岩の上。

自分にかけられている、毛布のようなそれは、その模様は……昨日、震えながら見た鹿の毛皮。

「夢じゃ……ないんだ」

自嘲ぎみに呟いて、私は思わず笑ってしまった。