「オフィーリア――!」

「……っ」
 
一瞬、彼の声が聞こえたような気がした私は、膝に埋めていた顔をゆっくりと上げた。

すると激しい雨が振り続いている雨音が耳に届いて、私は窓の外をじっと見つめた。
 
窓ガラスにはたくさんの水滴が付いていて、それはゆっくりと滴り落ちていく。

その光景を見つめながら、私はそっと指先で窓ガラスに触れた。

「……ブラッド」
 
小さく彼の名前を呟いて私は窓ガラスから指先を離した。
 
クラウンの元へ来てからもう二ヶ月が経った。

彼によって連れて来られたのは、森のずっと奥深くにある研究施設みたいなところだった。

研究施設の周りには、建物を隠すように大きな木々がそびえ立っている。

そして頭上にはこちらを見下ろす事が出来る断崖絶壁が見える。

あそこから落ちてしまったら間違いなく死んでしまうだろうと思いつつも、きっとここがクラウンたちの本当のアジトなのかもしれないと思った。

この研究施設は大きな崖と森によって守られている。

そう思うようになったのは、彼に用意された研究施設の最上階の部屋から外の景色を見渡してからのことだった。

そこからここ二ヶ月、私は外の世界から一切遮断された。

外に出る事は決して許されず、研究施設の中を出歩く事も禁じられて、今日という一日はほとんどずっと同じ景色を眺めて終えていた。

でも私はその方がずっと楽で良いと思えていた。

あんな人たちの顔を見るより、こうして同じ景色を眺めて一人で居る方が何も考えずに済んでいたから。

「……っ」
 
ここに連れて来られた直後、私はクラウンから自分の存在する意味と、星の涙が存在している新の目的について聞かされた。

「エアの最後の願い……」
 
星の涙はエアが亡くなる直前に願った事を叶えるために行動していると、彼は言っていた。

現在の主が寿命を迎えて死ぬ時、次の主となる者の元へ行くのはそのためだと言う。