「まさか……彼がここに来るとはな……」
 
俺は窓の外を睨みつけながら強く歯を噛み締めた。
 
ブラッド君が彼女の事を思い出しかけている事は分かっていた。

しかし忘却の魔法は掛けた者が解かない限り、絶対に解けるはずのない魔法だ。
 
だから俺は特に気にしていなかった。

もし思い出したとしても、彼が思い出す頃には全てが上手く行っていると思っていからだ。
 
しかし彼はもっと早くに彼女の事を思い出してしまった。

そして星の涙は俺の存在を拒み、彼をここへ来るように仕向けさせた。

「ちっ……」
 
後少しで俺がこの世界のトトになる事が出来たと言うのに、本当に君は想定外の事ばかりを引き起こしてくれる。
 
本当に君は彼にそっくりだよ……ブラッド君。

「クラウン様。シエル様の移動が完了しました」
 
すると後ろの方でアルファの声が聞こえた。

俺はいつも通りの笑みを浮かべ直すと、彼の方へと振り返った。

「ありがとう、助かったよアルファ。あの子は俺にとって大切な娘だからね。今ここで失うわけにはいかない。それは君も良く分かっているよね?」

「……はい」
 
俺の言葉にアルファは表情を一切変える事なく頷いて見せた。

その姿に俺は内心ほくそ笑み、次に命令を彼に下す。

「アルファ。次はオフィーリアを見張っていてくれるかな?」

「オフィーリアさんをですか? ……あのままで宜しいのではなかったんですか?」

「ああ、確かにあのままで良いとは言った。しかし彼女もここへ誰が向かって来ているのかくらい、薄々勘付いていると思うんだよ。しかし俺との約束を破らないためにも、ずっと部屋に引きこもっている可能性もある。予想は五分五分だけと念には念をだ」
 
そう、オフィーリアはブラッド君を守るために、自ら俺の元へ来る事を望んだ。

いや、俺がそう仕向けさせたんだ。

その約束は彼女が俺の側に居る限り守り続けてやろうとは思っている。