社会人になって六年。雪村すみれは日本から遠く離れた南米の国・チリに赴任することになった。南米の細長い形が特徴の国だ。

「チリって、南米の国ってこと以外何も知らないし……」

ブツブツ言いながら、すみれは空港を出る。すみれがチリに赴任することになった大きな理由は、スペイン語が話せるからだろう。大学生の頃、スペイン語を学んでいたのだ。

チリに赴任することに、すみれの両親は「治安は大丈夫なの?」ととても心配していた。すみれの両親は、とても心配性だ。すみれが大学の卒業旅行にインドネシアに行く前も同じことを聞いていた。

「もう子どもじゃないんだから、そんなに心配しなくてもいいわよ。チリでの家は会社の社宅だし、夜に外出なんてしないから!」

両親にいろいろ言われながらすみれはチリへとやって来た。チリのことですみれが知っているのは、スペイン語圏の国だということだけだ。

普通ならば、これからの生活に多少の不安を感じるのかもしれない。しかし、すみれは逆だった。これから始まる生活に少し嬉しさを感じていた。