「こんばんはぁ!」

 ガヤガヤと賑やかな声が玄関から響いてきた。
 私は浮かれた気分で、玄関のドアを開ける。

「いらっしゃい」
「どーもっす!」

 現れたのは、複数人の男性。
 以前家に来た、クロちゃんの部下達だ。ちなみに翼さんもいる。

 彼らは「こんばんはっす」とか「どーもっす」とか私に声をかけながら、玄関を通っていった。
 最後の人を家に招きいれてリビングに行くと、みんなそれぞれ勝手に持ってきたお酒やつまみを広げてやいやい言い合っていた。
 そこに、うんざりした声音が振ってきた。

「なに、お前ら本当にきたわけ?」

 階段の手すりから、睨むような視線を送るのは、クロちゃんだ。
 目深に被ったローブのフード越しにでも、目を細めたのがわかった。

「お邪魔してまーす」
「良いじゃないっすかぁ隊長! 前は良く来てたんだし!」

 明るい声で言ったのは、千時(せんじ)さんと、南(みなみ)さんだ。千時さんは、以前家を訊ねてきた時に、一番前にいた人だ。二十代前半で、短髪の黒髪、茶色の目をしていて、ガタイが良い。南さんは、十代くらいで、少し細め。ドレッドヘアーだ。

「来てたんじゃないだろ。〝勝手に〟〝押しかけて〟きてたんだろ」

 クロちゃんが不満たらたらに告げて、階段を下りた。
 そうなのだ。
 
 ここ半年くらいの間、遠征が多かったり、復旧作業で出かけたりでクロちゃん家に集まることが無かったみたいだけど、前は一ヶ月にいっぺんは集まっていたらしいのだ。

 また集まれるようになったから、集まりだしたみたいで、前に押しかけられた時は驚いたけど、わーっとみんなが騒いでるのを見てると、こっちまでなんだか楽しかった。
 だから、今日の集まりは私は楽しみだった。(クロちゃんは嫌そうだったけど)

 クロちゃんと付き合いだして二ヶ月あまり。
 毎日幸せだなぁと、思う一方で、不満なこともあったりして。

「それにしても、意外だったなぁ」
「ん?」

 私に耳打ちしてきたのは、空(そら)さんだ。
 空さんは四十代くらいのおじさんで、左目と左頬に火傷の跡がある。左目は白く濁っていて、視力は殆どないのだそうだ。

「隊長が女と暮らしてるなんて」
「ですよねぇ!」

 会話に参戦してきたのは、丹菜(ニナ)さんだ。
 丹菜さんは髪が長くて、緑色の髪をポニーテールにしている。ひょろっとした二十代の男性だ。この人にも首に薄っすらと、切られたような傷がある。
 私は空さんと丹菜さんに挟まられる形になった。

「……えっと、それって?」
「隊長って、絶対女嫌いなんだと思ってましたもん、僕!」
「ああ。俺も思ってた」
 ……女嫌い。
「だって、あれでしょ。雇ってたメイドも迫られたからクビにしたんですよね? 確か」
「ああ。そのはずだ。でも、それがこんなに可愛らしい女の子と同棲してるなんてなぁ……。で――どこまで進んだんですかい?」
「ちょっと、空さんそれセクハラですよ!」
「……あはは」

 やいのやいのと言い合っている二人に、私は乾いた笑いを返した。

〝女嫌い〟

 私はその言葉に思い当たるふしがある。
 クロちゃんと付き合って二ヶ月。クロちゃんと、いまだにキスもしてない。
 ソファでくつろいでいて良い感じになった時もあったし、デートしてて、良い雰囲気になったときも何回かあったのに。

 一度もない。
 一度もだ。

 私が目を瞑ると、冗談だと茶化されたり、良い雰囲気になった途端お風呂に入ってくると逃げられたり……。

 翼さんが良い雰囲気の最中にやってきてしまった時に、あからさまにほっとした顔をしたこともあった。

 私に魅力が無いのかなって、何度か落ち込んだことがあったけど……。
 そっか、女嫌いか……それって、どうなの!?

 私と付き合ってみたものの、やっぱり、気の迷いで、男が好きなんだとか言われたら……どうしたらいいの!?

 それともやっぱり、こんなこと考えたくないけど、魔王が目当てとか……いや、いやそんなはずない!
 あのクロちゃんの告白は本物だった! 本気だった! ……と、信じたい……よぅ。