「ここ、穴場」


 保健室を出て桝田くんとやってきたのは、教室ではなかった。


 3階から4階に続く、非常階段。

 そこは普段誰も近づかない場所。


 あのまま保健室にいれば、先生が戻ってくるし。

 誰が来るかわかったもんじゃないから。


 ――2人に、なりたかった。


「静かだし。風通りもよくて、いいね」


 平静を装って声を発するも――


『好きなんだ。古都が』


 さっき言われた言葉が、頭から、離れなくて。


 衣替えをして、身軽になったのに。

 カラッと晴れた爽やかな昼時なのに。


 わたし達の間を流れるクウキは、どこか重みを含んでいて。

 なのに隙間だらけにも思えて。 


 それでも――


「座れば」


 お互いが、お互いを埋めるように。


 慎重に言葉をかわしていく。


「うん」