日本の解剖率は、先進国の中で最も低い。不自然死の八割は解剖されないまま闇に葬られている。

その闇の中に、どれだけの事件が隠されていたのだろうか。後悔しても、すでに真実を教えてくれる人物は灰となって眠っている。

法医学研究で働く監察医・霧島藍(きりしまあい)は、今日もメスを手にする。

「小腸に手術の跡がありますね」

「胃の内容物取り出します」

遺体は、日本全国から毎日のようにやって来る。その多くが闇に葬られようとしていたご遺体だ。

台の上にまた、遺体が置かれる。藍たち監察医は目を閉じて黙とうをした。



「はぁ〜……。終わった〜」

解剖が終わった後、監察医の木下朝子(きのしたあさこ)が机に突っ伏する。

「お疲れ様です、朝子さん」

研究所にアルバイトで来ている医大生・河野大河(こうのたいが)が麦茶を出す。朝子は「ありがと〜」と言い飲み始める。

「霧島さんもどうぞ」

頰を赤らめながら、大河が麦茶を藍に渡す。大河は藍のことが好きなのだ。