百日紅が綺麗だという小道を、陽くんと2人で並んで歩く。


噂されるだけあって、ビビットピンクの小花は、青々と茂る深緑の葉に映えて静かにその命を燃やしていた。


「風船、いらなかった?」


陽くんは私の手をぎゅっと握る。


「そういうわけじゃないけど…」


「千代ちゃん、風船苦手だもんね」


「知ってたの?」


「だって千代ちゃん、子供が風船持ってたら足早に通り過ぎようとするんだもん」


まるで子供のいたずらを見つけた時のように、陽くんは口元を綻ばせた。


私はそんな陽くんの横顔をちらりと覗き見る。


「…手からね、出て行くでしょ?」


「風船?」


「うん。…あれがすごく寂しくて嫌いだったの」


「…そっか」


きゃあ、と後ろで子供のはしゃぐ声がする。


陽が傾き始めていて、もうそんな時間かと陽くんの手を引いた。


「帰ろっか」


「そうだね」