次の日、異変に気づいたのは夜勤でやってきた私がロッカールームでナース服に着替えてから病棟まで向かう途中のことだった。

「ねぇ、あの人じゃない?」

「MIYAMOの御曹司に遊ばれて、柊製薬のお嬢様に楯突いたっていう例の」

「うそ、見えなーい!」

あちこちから居心地の悪い視線を向けられて、ヒソヒソと話す声が聞こえる。どうやら昨日の出来事はあっという間に病院全体に広まったらしい。

居たたまれなくなり、下を向いて視線から逃げるように足早に病棟へ向かう。だけど病棟でも好奇の目から逃げることはできなかった。

「聞いたわよ、日下部さん」

「ま、松浦さん」

「大変だったわね」

騒ぎを知っているらしい松浦さんが同情の目を向けてくる。そして呆れたようにため息を吐いた。

「まったく、噂なんてくだらない。日下部さんは、そんなことができるタイプの人間じゃないのにね」

「松浦さん……」

「ずっと一緒に働いてきたんだから、日下部さんの人となりぐらいはわかるわよ。私はあなたの味方だからね」

そう言われて胸が熱くなった。誰も味方がいないと思っていたけれど、ちゃんと私を見てくれている人がいたんだ。