「王子様、完璧に捕獲態勢になってきたねえ」
「……面白がってるでしょ」


その日の五時間目と六時間目の休み時間、私はぐったりしていた。


「いや、あれは誰が見てもそう感じると思うけど? 委員会の仕事で負傷して授業に遅れてくるだけならまだしも、王子様にがっちり守られて送り届けられてるんだから」

梨乃がいつものように自席から振り返りながら言った。


「で、なにがあったの? お姫様抱っこされてたって話は聞いたけど」
「なんで知ってるの……?」
「甘いわね、王子様の人気を侮っちゃだめよ。女子の騒ぎはすごいし、お姫様抱っこの写真なんて学校中に駆け巡ってたわよ」


なんで私だってわかるの? 


心の叫びに気づいた親友があっさり言う。

「王子様がお姫様抱っこするほど大事にしている女子なんてナナしかいないでしょ。隠しても、皆気がついてるわよ」

呆れたような言い方にさらに居たたまれなくなる。


「……ただの友人への親切だよ」


私の弱々しい声に、からかうように話していた梨乃がバッと立ち上がった。

「……なにかあったの?」

空席になっていた私の前の席に腰かけて、真剣な表情で覗き込む。同じような問いかけなのに声音が全然違う。