引越しの翌日から
大広間で朝食を済ませると

キッチンで後片付けを手伝いたいとお願いをしてみた

支度ではなくて後片付けにしたのは
支度は朝5時からだと聞いたから

人数が多いからそりゃそうだよね

何かしてないと
雰囲気に飲み込まれそうになる自分が嫌だったからってのもあるし

母と二人の生活での食事当番は私だったから・・・

存在感の確認・・・かな

キッチンって言うより
レストランの厨房って雰囲気満載の
広いキッチンは

東 重蔵《あずま しげぞう》さんが仕切っている


「重《しげ》って呼んでくだせぇ」


白髪混じりの巨体は一瞬怖くて怯むものの
目尻の皺が笑うと4本に増えるところが亡くなった母方の祖父に似ていて

あっという間に親近感が湧いた


「重さん、行ってきま〜す」


やたら懐いた私に
15時にプリンを作ってくれると約束してくれた重さんに励まされて


初めての道着に着替えると
せいごんの案内で道場へ出かけた


「嘘!」


てっきり出掛けると思っていた私の予想を裏切って

敷地の中にそれは建っていた

既に中からドスのきいた声が漏れ聞こえていて

緊張のあまりせいごんの腕にしがみついてしまった


「大丈夫?」


「あ、う、うん」


どう見てもビビってるよね?
やっぱやめない?

なんて簡単なことでもなく

これは決定事項と
渋々諦めて引き戸に手を掛けると

一気に開いた


「おはようございます!」


最初が肝心!と意気込んで入った先は


小さいお爺さんと大きな怪獣が組み合っていた


・・・お爺さんヤバくない?


怪獣に潰されると心配した私は
気がつけば走り出していて

お爺さんと怪獣の間に立つと


「やめて!」


大きな声をあげていた



「「・・・?」」