セデの町は山の麓に位置しているため私たちのような旅人の恰好の休憩ポイントになっているらしい。
 小さいと聞いてはいたが昨日の城下町と比べるとやはり随分と閑静に思えた。
 特に入口という入口も無く、木々の間にぽつぽつと見えるコテージのような家が、奥に進むにつれ徐々に増えていく。
 その光景は“町”というより“集落”のイメージに近い。

 道幅がだんだんと広くなり灯りのついた家々が道の両側に密集してきた頃、漸くちらほらと人通りが出てきた。
 そしてこの辺りから看板を出している家が目につき始めた。看板を出しているからにはお店なのだろう。そこに描かれた絵から何の店なのか大体わかった。
 フライパンと酒瓶が描かれた看板を見かけた時ふと良い香りが鼻をくすぐった。途端弱々しくお腹が鳴って、自分が空腹だった事に気付く。

「まずは飯にするか」

 前を行くラグが足を止め聞こえてしまったかと恥かしくなる。
 彼は早速その店に向かい、私も後を追った。

 扉を開けるとカランコロンという木と木が触れ合う小気味いい音とともに心地よい程度の喧騒が耳に入ってきた。
 一瞬、中にいた10人ほどの客の目がこちらに集中してドキリとする。
 だが皆すぐに自分たちの話題に戻っていった。私は小さく息を吐く。

(なんか、人の目が怖くなったかも……)