山を越えるとセデという町があるのだという。
 ラグはまずそこで傭兵を雇いたいらしい。

 彼曰く、

「お前の歌は危なっかしくて使えねぇし、いざってときにもう一人いた方が何かと助かる」

とのことだ。

 あの後、また泣かれたら堪らないと思ったのかラグは私の質問に一応全部答えてくれるようになった。……相変わらず仏頂面ではあったが。

 昨日私がいたお城はグラーヴェ城といい、この国を治めている王様の居城なのだそう。
 この国の名はランフォルセ。

 そしてこの世界は“レヴール”。――そう呼ばれているらしい。


 日が高くなり、服の下が汗ばんで来た頃ラグが休憩時間を作ってくれた。
 すでに足が棒のようになっていた私は、多少抵抗はあったもののそのまま地面にへたり込んでしまった。
 ラグからもらった初めて見る木の実をおっかなびっくり口に含んだときだ。

「念のため言っとくけどな。お前、もう人前では歌うなよ」

 唐突に言われ首を傾げると、ラグは続けた。

「お前がいた、その、“ニホン” じゃどうだか知らんが、このレヴールでは歌は不吉とされてる」
「……何それ?」

 味がピーナッツに似ていた木の実を飲み込んで、訊く。
 歌が不吉?
 どういうことだろうか。いまいちピンとこない。

「そのまんまだ。街中で昨日みたいに歌ってみろ。頭のおかしな奴だと思われて最悪街から追い出されるぞ」
「へ!?」