「……消えちゃった」

 また一人になってしまった私は今の今まで彼が浮いていた空間を見ながら呟く。

 ――とりあえず、もう一度頭を整理することにしよう。

 彼と話してわかったのは、やはり此処はつい先程まで私がいた世界とは、異なる世界だということ。
 そして、元の世界に戻るには帰るための楽譜が要るということ。
 その楽譜は金髪の彼、エルネストさんが持っていて、でも幽閉されているという彼を助けなければその楽譜はもらえない。

「って、これだけ?」

 結局、まだまだわからないことだらけだ。
 この世界は一体どういう世界なのか。
 “銀のセイレーン”とは何なのか。
 そして、何で私の髪の毛が銀に変色したのか。

(消えるの早過ぎだよ……)

 どうせなら全部わからないことを訊いておけば良かったと、今更ながらに後悔する。
 しかし彼も無謀過ぎる。
 これだけこの世界について何もわかっていない私に「助けろ」だなんて……。
 しかも助けてくれと言った本人が一体どこにいるのか、教えてはくれなかった。
 でも、彼は消える直前「これからよろしく」と言っていた。
 それはこれからも今のように現れてくれるということなのだろうか。

(それなら、その時にまた色々訊けばいいけど)

 とにかく何もわからないこの世界で自分のことを解ってくれる人がいたのだ。
 今の私には、それだけでとても心強かった。
 助けが来ると言った彼。今はその言葉を信じるしかない。