「小蔦、また痩せた……って言うかやつれてない?」

開店準備をしている最中、藍里が慣れた手付きで受付のカウンターを拭いていると眉を潜めて訝しむようにじっと見てくる先輩に苦笑し、大丈夫ですよ。と言った。

「先輩の気のせいですよ。でも、痩せて見えるのは嬉しいです」

「いや、痩せて見えるとかそんなんじゃなくて明らかにやつれてるでしょ。腕もほら……」

言いながら藍里の腕をそっと掴んだ先輩は顔をしかめた。
それは明らかに異常だと思われるほどの細さだと藍里自身も自覚しているが、自分ではもうどうしようもなかった。

あの日、限界を感じたその時から、藍里は気力がなくなってしまった。
義務的に家事をして、動くために必要な最低限の食事をして、一人しかいない寝室で眠れない夜をただぼんやりと天井を見つめて過ごす。

そんな無気力な藍里を動かしているのは大好きな動物達と触れ合える仕事だった。
仕事のためなら例えどれだけ寝不足でも、食事が出来ずに目眩がしても、何があっても来ようと思えるほどで、今の藍里の唯一の心の拠り所だった。

もしこの仕事を取り上げられてしまったら、その時こそもう自分は駄目になってしまうのではと思っている。

「小蔦……何かあったなら相談に乗るからいつでも言ってって言ったでしょ。
このままじゃ病気になるかもしれないし、倒れ……」

「大丈夫です。大丈夫なんです、先輩」

ここで仕事が出来れば……動物達と触れ合えられれば大丈夫。
まだ暫くは大丈夫だと自信を持って言えた。

真っ直ぐに先輩を見つめ、最後まで言わせないように遮って断言すると先輩は何も言わずにただ心配そうに藍里を見つめた。