翌朝の新聞では銀行での事件の事が大きく載っていた。
テレビでもトップニュースでやっていて、犯人達の顔写真も出ていたのだけれど、藍里はほとんど見ることなく電源を消してしまった。

昨日の事件が思い起こされて恐怖が蘇えってしまうのが怖かったからだ。

すでに智大がいない家の中、藍里はダイニングテーブルに突っ伏して深く息を吐いた。
事件の関係で早めに家を出たこと、そして帰るのはいつも以上に遅くなるだろうことがスマホのメッセージではなく何故かメモに書かれ、ラップがかけられた小さめのおにぎり二つの側に置かれていた。

早めに出るのを知らなかったとは言え、今日も起きて朝食やお弁当を用意することが出来なかった。
なのに、智大はわざわざ藍里の食事を食べやすい大きさで、食べきれる量を用意してくれていた。

「……こんなんじゃ、駄目だよね……」

智大が自分と結婚した理由は未だに分からないが、たまの休みの日には文句を言わずに買い物に付き合ってくれるし、寝坊した時は起こすことも怒ることもなく、こうやって食事を用意してくれている。

態度や言葉は冷たくて一緒にいるのも話したりするのも怖くてたまらないが、最近はこうした智大の然り気無い優しさを少し感じられるようになったと同時に藍里は自分の不甲斐なさを感じていた。
ゆっくり体を起こすと両手を合わせて小さく、いただきます。と言っておにぎりに手を伸ばした。

この後は病院に行こう。
そして今の状態を相談してみようと、そう決意しておにぎりを頬張った。