〈智大side〉

立て籠り事件は解決までに早くて数時間、長くて数日かかる。
人質の状態で強行突破もやむを得ないが、犯人を刺激したり興奮させたりしない為にそれは最終手段となっている。

それを思えば、今思い出しても藍里の時は本当に限界ギリギリだった。

元々食事も睡眠もまともにとれずに衰弱しつつあった藍里。
一緒に暮らしていたことで精神的にも不安定だったのに、理由も知らされずに家に隔離され、我慢出来ずに家を出て息抜きをすれば突然連れ去られて監禁。

相手は銃を所持しているという恐怖の中、藍里が平静を保てるはずもないのが分かっていたのに、非情にも居場所を突き止めるのに数日かかってしまった。

窓から無理矢理姿を見せられた藍里が発作をおこしていて、かなり危険な状態だと察した時には他に何も考えられなくなっていた。

他の何を危険に晒しても、藍里を必ず救い出す。

そう決意して室山に藍里が限界だと詰め寄り、最短で救出する作戦を導き出して自らが先頭をきって屋上からロープで壁伝いに下降し窓から突入した。
失敗すれば自分にも危害が及ぶが、そんなこと知ったことではなかった。

現に医者には後数分でも治療が遅れていたら命の保証はなかっただろうと言われ、血の気が引いたのが昨日のことのように思える。

そんな目にあった藍里が自分みたいな思いをする人を増やさないでほしいと、救ってほしいと、陣痛の痛みに涙を浮かべ、顔を歪ませながらも必死に訴えてきたのを思い出し、智大は容疑者が立て籠っている部屋をきつく睨み付けた。