【卯月輝side】
「卯月くん!」
「はい。」
病室から出て僕は外に向かっていた。
その途中で鈴の母親に呼び止められた。
「…手術、明日…」
「分かってます。
なので鈴に渡しておいて欲しいものを取りに行きます。
…僕も最後の準備をしようと思います。」
…僕の願い。
鈴の幸せ。
鈴が幸せであればそれでいい。
…鈴が元気な時にちゃんと別れ言いたかったな…
手紙になっちゃうや。
「…本当に、いいの?」
「ここまで来て何言ってるんですか。」
鈴が苦しみから逃れたいのは鈴の両親だって分かっているはずだ。
彼氏と心臓が同一なら、親ならどちらを取るか一目瞭然だろう。
それにこれは僕が決めたことだ。
「…卯月くんがいなくなったって知ったらあの子は…」
「…その辺りはフォローお願いしますね。」
…僕はもう、鈴の傍には居られないから。
鈴のために出来ることはもうこれだけしかない。
鈴へのプレゼントの中に僕のアパートの鍵を入れておこう。
『またね。』の絵を持っててもらうも自由に。
あれは、僕から鈴への最期のメッセージだ。
さよなら、だと永遠にさよなら、だからまたね、にした。
…生まれ変わったらまた鈴に出会いたいなあ…
もっと強気な男に生まれ変わりたい。
僕は最期まで逃げてしまうから。
…母さん。
せめて、最期に母さんに会いたい。
ープルルル…
コール音が1回…2回…
『もしもし?輝?どうしたの?』
「…母さん、会いたい…」
『…どうかした?』
「…会いたいんだ…母さん…」
『分かった。』
母さん、これが最期だ。
『前に事故にあったあの商店街の文房具店でいい?』
「うん。」
『待ってるわ。』
…行こう。
これが母さんに会う最期なんだ。
最期くらいちゃんと…親孝行しておかないと…
僕は前に母さんに会ったあの商店街に向かって走った。
…文房具店…
の前に人影。
「…母さん。」
「輝、どうしたの?」
母さんの目の前で立ち尽くす僕。
「…とりあえず場所変えましょ?」
「だったら…僕の家、来て…」
…ここからそう遠くないから。

「…どうぞ。」
鈴以外来ることはないと思ってた。
母さんはアパートの中に入って父さんの遺影を見る。
「…和樹、久しぶりね…」
「母さん…父さんの遺影と遺骨持ってってあげて」
…僕が持っててももう、仕方ないから…
「…どういうこと?」
「前にも話したでしょ。
…僕はもう、死ぬんだ。」
鈴のために。
愛する人のために命を投げ出す。
「…輝…」