【卯月輝side】
「なあ、早くそこから飛び降りろよ。」
「…む、無理…です…」
今、僕がいるのは屋上。
の縁ギリギリ。
今、風が吹いてきたら死ぬかもしれない。
「お前みたいな目障りなやつはさっさと死ぬに限るだろ。」
いつもの通り。
クラスのイケてる系の男達が僕を取り囲んでニヤニヤ笑っている。
…この人たちは、“命”を軽く見ている。
こんなの、命への冒涜だ…
「オラ!さっさと飛び降りやがれ!!」
「ひっ…」
ガンッ!と縁を蹴る1人。
イケてる系の男達のリーダー的存在の人だ。
…だれか、助けてくれよ…
「…うっ…」
「うわ、見ろよ、泣いてやがるぜ。」
「だっせー!」
…なんでなんだよ…
僕が一体何をしたって言うんだよ…!
ーバン!!
「やっぱりここにいたのね!!」
「あ、鈴ちゃん♡」
…佐倉…さん?
なんで、ここに…
「もう!卯月くんをいじめるのやめてよ!」
「いじめじゃねえよ?
教育してやってんだ!」
「クラス委員として見過ごせないんだけど?」
佐倉鈴さん…
クラス委員であり、この学校のマドンナ的存在の彼女。
優しくて明るくて頭もいい。
僕と違って気が強い。
噂では昔空手を習っていたとか…
「いくら鈴ちゃんでもこれ以上邪魔するならまとめて潰すよ?」
「やってみなさいよ。卯月くんは守る!」
佐倉さんは僕の前に立って仁王立ちする。
男のひとりが拳を振り上げる。
そのまま佐倉さん目がけて拳が飛んでくる。
「…遅い。」
だが、その拳が佐倉さんに当たることは無かった。
避けて反撃として右足で男の首を蹴る。
倒れ込んだ男の子を見て佐倉さんは腕を組む。
「女だと思って油断していたら痛い目見るよ?」
図星だったのか、男は立ち上がると他の人と共に屋上から去って行った。
「さて、と…」
「あ、…あんなに動いて大丈夫?」
彼女はあまり動いてはならない。
体育も参加はしているがあまり動いてはいない。
…いや、動いてはならないんだ。
「ふふっ、心配性だね?大丈夫だよ!」
誰もこんなに明るい女の子が病気持ちだなんて信じないだろう。
僕でさえ、病院で彼女と出会うまで信じなかっただろう。
「…って言いたいんだけど、実はあまり大丈夫じゃないや。」
へへっと笑って胸を押さえて蹲る彼女。
…そう。
佐倉鈴さんは心臓病に罹っている。
「僕なんか庇わなくてもいいのに…」
「…どうして?」
「僕には…佐倉さんみたいにいい所たくさんないし…」
…人としてら誇れるところなんて何も無い。
「…卯月くん…」
佐倉さんは僕の手を握ってニッコリ微笑む。
「卯月くんには、いいところ沢山あるよ。」
…佐倉さんにかばって貰えるような人ではないんだ、僕は…